スバルレオーネ(5才)

記憶はひとつを想いだすと、前後して想いだしたり、全く関係のないことを想いだしたりするようだ。

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体は丈夫で小学生まで無遅刻無欠席だった。保育園で5才の七五三は半ズボンにタイツだったのが恥ずかしかった、千歳飴もいらなかった。
 
雪が降った夜、父と母は喧嘩をした(普段からまあまあ喧嘩していた)。本当に嫌だった。ある日、弟が寝ている時にいよいよ母が出て行くと言い出したから、本当に母が出て行ってしまうと思った。弟のときのことを思い出して「お母さん出て行かないで」と頼んだら「あなたはお父さんに似てる。もう、あなたのお母さんではないので、これからは(旧姓の)⚪︎⚪︎さんと呼びなさい」と言った。
 
母がいなくなるのは嫌だったので、父の部屋に行き「お母さんが出てっちゃうよ」と母を止めるように頼んだが「出て行きたい奴は出て行かせればいいんだ」と言って止まる様子もない。居間に戻ると母はコートを着て出て行くところだった。私は母を追いかけてアパートの階段を降りて行ったが、母はそのままスバルレオーネで雪の中を出て行った。雪の中、私は止めたら考え直してくれると思っていたが、母はそのまま車を運転して家を出てしまったのだ。
部屋に戻り父にそのことを告げたが「そうか」とかそんな返事でその後は覚えていない。次の日に母が帰ってきたので何処へ行っていたのかたずねたら「職場にいた」と言っていた。私は、これからはずっと家にいるのか?ということよりも、職場で寒くなかったのだろうかと思ったのを憶えている。
 
父が随分(母も)な態度を私にとったような記憶だが、私は結局母を止められなかった。止められると思ったがどうにもならなかった。
母も父も私の意思は関係なくやりたいようにやる時もあると、そう思った。だからといって、二人に仲良くしてくれとか言うことはなかった。