もし僕らのことばがウィスキーであったなら
もし僕らのことばがウィスキーであったなら、もちろん、これほど苦労することもなかったはずだ。僕は黙ってグラスを差し出し、あなたはそれを受け取って静かに喉に送り込む、それだけですんだはずだ。とてもシンプルで、とても親密で、とても正確だ。しかし残念ながら、僕らはことばがことばであり、ことばでしかない世界に住んでいる。僕らはすべてのものごとを、なにかべつの素面(しらふ)のものに置き換えて語り、その限定性の中で生きていくしかない。でも例外的に、ほんのわずかな幸福な瞬間に、僕らのことばはほんとうにウィスキーになることがある。そして僕らは――少なくとも僕はということだけれど――いつもそのような瞬間を夢見て生きているのだ。もし僕らのことばがウィスキーであったなら、と。
村上春樹: もし僕らのことばがウィスキーであったなら(1999)
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1999/12
- メディア: 単行本
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その時、象は平原に還り
そしてその時、象は平原に還り僕はより美しい言葉で世界を語り始めるだろう。
-村上春樹 風の歌を聴け (講談社文庫) (1979)
村上春樹の小説を読むというのは、それが何度目か、初めてかを問わず特別な体験だ。なにか聞いた風なフレーズだけど、本当に特別だ。
村上春樹の小説を読む時に前提を設けたくないが、彼=「僕」が文章を書くこと、「僕」がどう生きているかに注目しながら、読みたい。でもよく考えると「文章を書くこと」と、「いかに生きること」についてについて書いているのが村上春樹の小説なのだろう。「fairness」と「desency」、「そういった生き方を取ろうと努め」てきたのが「僕」なのだ。
夢十夜(04) ハンカチ
小学校にあがる前、父がいたということは、小学校に上がる前の年だと思う
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父と、母親の職場の近くに二人でお寿司を食べに行った。
父の職場は広大な農業試験場の中にあり、僕たちはその職員用の集合住宅に住んでいたが、母の職場は市の中心にあった。
でもなぜか、二人でお寿司を食べることになり、二人で出掛けた。
母と弟は、いなかった。
僕は、小学校くらいまで、お寿司も焼き肉も、好きじゃなかった。
嫌いでもなかったけど、外食自体、好きじゃなかった。
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二人でカウンターに座った。
板前さんは、白髪のボウズ頭のおじさんで、父は、板さんとなにか喋っていたけど、聞いてなかった。
僕はお寿司なんか好きじゃないし、どうすればいいかわからないから、ぼーっとしていた。
すると、鼻水がでそうになった。食べている時に鼻水がでると困るのでそう父に伝えた。
すると、これでかみなさいと父がハンカチを渡した。
ハンカチで鼻をかんだことがないから、ふんってやってもあんまりでなくて、中途半端になった。
出ないと言うと、父はハンカチを押さえて、思いっ切りかみなさいと言った。
今度は思いっ切りかんだら、すごい量の鼻水がでた。
ビックリしたし、ハンカチが汚れたのでいいのかなと思って父の顔を見た。
すると、板さんと、父が顔を見合わせて、大声で笑った。
僕も、いっぱいでてスッキリしたので、大声で笑った。
「僕」の中に混入してきた「俺」の謎 - 村上さんのところ/村上春樹
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村上春樹が、とにかくものすごい件数のメールに返信しているのに驚いた。
「僕」と「俺」「おれ」はもちろん意図的に、微妙に使い分けています。そう思って読んでくれますか? 人称というのは僕にとってはかなり大事な問題で、いつもそのことを意識しています。僕の場合、一人称から三人称へという長期的な流れははっきりしているんだけど、そろそろまた一人称に戻ってみようかなということを考えています。一人称の新しい可能性を試してみるというか。もちろんどうなるかはわかりませんが。
一人称に戻して欲しいと思う。私も短編集を除くと1988年の「ダンス・ダンス・ダンス」まで(ノルウェイの森を除き)の5作品が好きだ。
風の歌を聴け (講談社文庫) 講談社 1979年7月25日 『群像』1979年6月号掲載。
1973年のピンボール (講談社文庫) 講談社 1980年6月20日 『群像』1980年3月号掲載。
羊をめぐる冒険 講談社 1982年10月15日 『群像』1982年8月号掲載。
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 全2巻 完結セット (新潮文庫) 新潮社 1985年6月15日
ノルウェイの森(上) 講談社 1987年9月10日 上下二分冊で刊行された
ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫) 講談社 1988年10月24日 上下二分冊で刊行された
スバルレオーネ(5才)
記憶はひとつを想いだすと、前後して想いだしたり、全く関係のないことを想いだしたりするようだ。
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